見直しの住居学14:小さなエネルギーで暮らそう
住まいの設計に携わって以来、快適な環境のために過剰になりがちな機械設備を少しでも抑えることをいつも考えてきました。
エアコン、床暖房、熱交換型換気扇、サーキュレーター、加湿機、除湿機、イオン空気清浄機。
室内環境を調整する機械設備は様々にスタイルを変え、私たちの暮らしに入り込んでいます。
開き扉の上の欄間。子供室などプライバシーもある程度確保しながら風を通すことができます。
福島原子力発電所でレベル7という大きな原子力事故が起こってしまいました。
今回の事故で分かるように原子力発電は一度事故を起こしてしまうと暮らしや環境に甚大な影響を与えてしまいます。
これからの発電を原子力に依存しない社会を築くためにも、なるべく設備に頼らないで快適を生む家づくりがいっそう求められているといえるでしょう。
ヒントは昔の暮らしの中にあります。私たちの祖先は自然環境に対抗することなく自然を愛でながら自然と共に暮らすことが上手でした。冬には綿入れを羽織って、囲炉裏や火鉢の回りに集まり、夏には打ち水をし、風鈴や浴衣で涼しさを演出していました。快適さに慣れ過ぎてしまった現代の私たちは、このような「寒ければ寒いなりに、暑ければ暑いなりに」という暮らし方はできないかも知れませんが、その考え方を取り入れた暮らしで、多少とも設備に頼らない快適さを生み出すことはできるはずです。
【写真左】襖の下につけた無双ガラリ。スライドして開けたり閉めたりして風通りを調整できます。これは開けた状態の夏モード。
【写真右】こちらはスライドして閉じた状態の冬モードです。
昔の暮らしの知恵を現代の暮らしに生かす方法は色々あります。
換気を例にとると、地面に近い部分の地窓や建具上部の欄間、引き戸やがらり戸を通風に利用する、また床の小さな開口などによる通風は驚くほど効果的です。
これらはみな、昔からの住まいに風を取り入れる手法です。
こうした家づくりの知恵を現代の住まいづくりにできるだけ活かすことはとても大切なことのように思います。
私の設計でも床暖房は欠かせませんが、家のつくりや暮らしの知恵で設備の稼働時間を少なくして節電をしながら小さなエネルギーで暮らすことは可能です。
昔の住まいに学びながら、機械設備に頼る比率を少なくしていくことは、福島原発の事故のあとますます大切なことになると思います。
【写真左】押入の下に計画した地窓。夏は涼しい風が入る。
【写真右】床下から風を取り込む床通風口。
【写真左】脱衣室などに使うガラリ戸。湿気などを逃がすことができる。
【写真右】欄間をつけた扉は風を家全体に通すことができます。