見直しの住居学9:地域らしさも大切に

「誂え、拵える」姿勢で地方色のある美しい町並みを・・・

昔は家を近くの山の木で建てました。近くに茅があれば茅葺き屋根になり、稲藁がたくさん出る農村では藁葺き屋根になりました。壁は近くの土をこね、竹を編んだ壁の下地に塗って仕上げました。大工や左官、屋根を葺く職人もみな近くにいました。地元の職人が地元の材料でつくる家々は、自然にその地方独自の町並みを形成していったのです。会津の曲がり家、川越の蔵造り、京都の通り庭のある町屋、高山の合掌造り。みなそれぞれの気候風土にあった美しい町並みです。

また家は棟梁に「誂(あつら)える」ものであり、棟梁にとっては職人たちと一緒に「拵(こしら)える」ものでした。今では言葉さえめったに聞かれなくなったこの「誂える」と「拵える」という考えを、家づくりに蘇らせることが必要だと思います。

私にはこの考えを意識した工務店や設計事務所、製材所など、参加企業14社からなる小さなネットワークがあります。山の職人さんとも顔の見える関係ですから、建築主は山に行き、自分で柱や梁の木を選び、その木が製材される過程をみることもできます。山を維持することの大変さ、木は節があっても粗悪品ではないことなどが、山に行くとよく分かります。「誂える」からこそ、建築主も色々なことを自然に学び、工務店もまた建築主の相談にのりながら、昔の棟梁のように家を「拵える」気持ちで対応しているのです。

【写真左】建築主さんの実家の山(山梨県上野原町)で切り倒した樹齢80年の赤松の大木
【写真右】その山の木を製材所に運び、加工を待つ

【写真左】乾燥小屋に移して自然乾燥中
【写真右】この状態で約1年乾燥します

このようなネットワークは近年かなり増えてきました。皆さんの近くにもきっとあるでしょう。近くの山の木を使い、地域を大切にする工務店がどんどん家をつくるようになればいいと心から願っています。そうすれば、あと50年も経たないうちに、また地方の特色ある美しい町並みがもどるはずだと期待しているのです。

山梨県上野原町の実家の山の木でできた横浜市の住まい
実家の山の木で
実家の山の木でできた横浜市のIさんの和室。
中央の大黒柱は30cm角の桧、天井は杉。


勾配天井のリビング
勾配天井のリビング。
化粧梁は山の木の赤松、大黒柱は30cm角の桧。