見直しの住居学5:キッチンは住まいの真ん中
昔は、台所といえば住まいの北側と決まっていたようです。冷蔵庫なんてなかったから野菜や食物が長持ちするように、腐らないようにと北側の涼しいところを台所にしていました。びん詰めの食品や調味料で「開封後は冷暗所に保管してください」との注意書きをよく目にすると思いますが、まさしく台所はこの冷暗所にあったわけです。
今の住まいではどうでしょうか。冷蔵庫も冷凍庫もあります。北側の寒いところに台所を置く理由はあまりないようです。もっと明るい暖かいところに台所を計画したほうがよいと思います。台所仕事が一番つらいのは、寒い冬の朝だと思いますが、東側の台所なら、朝から日があたります。日が直接あたらないにしても、明るくなる方向に向かって作業ができます。東南の一番日当たりのよい所を台所にした住まいもあります。天気のよい朝は、太陽の光がさんさんと入ります。誰よりも主婦が一番それを喜んでいるので、その喜びが家族にも伝わり、家族が仲良く暮らす楽しい住まいになっています。
2階のキッチンです。東側にむかって大きな開口があり、明るいキッチンになっています。小さなゴミ一時置き場のバルコニー付きです。
台所の位置は、敷地や道路との関係、ほかの部屋の配置などさまざまな条件で決まりますので、どうしても北側や西側に計画せざるを得ない場合もあります。そのときは、流し台の近くに窓をつけるようにします。夜はともかくとして、日中は自然光のなかで野菜や食品の色を見られるような状態にしておく必要があるからです。野菜や魚や肉など、新鮮であるかないかは、蛍光灯の光よりも自然の光のほうがはっきりとわかるものです。お店で見たときはグレーだったのに、家に買って帰ったら淡いグリーンで、せっかく買った洋服なのにがっかり、といった経験のある方もいると思います。微妙な色は、照明器具の光と自然の光では違って見えることもあります。
台所にいる時間が長い主婦にとって、台所は作業場というよりも生活空間に近いと思います。だから独立した台所にするよりも、オープンキッチンといって、リビングの方を見ながら洗い物や調理ができるようにしたほうがよいようです。特に若い夫婦や子供が小さい世帯にはこの配置が好まれています。私の設計する住まいでもこのパターンが多くなっています。子供たちや仲間たちとの会話に参加しながら台所作業を続けられるというメリットがあるだけでなく、後ろが壁面になるので、冷蔵庫と大きな食器棚のスペースがとれ、台所回りの収納が充実するという大きなメリットもあります。
奥行き1mの広めのカウンター、後ろは作りつけの食器棚です。
これだけ収納があるとキッチンも楽に作業できます。
外の景色を見ながら作業できる、南に配置して明るく、リビングとワンルームのようになっています。
ゴミの一時置き場などに使えるバルコニーのあるキッチン。
大きなテーブルは造り付けに。
リビングに向かって作業ができる対面式のキッチン。
背面のトップサイドライトから自然の光が入る