見直しの住居学4:リビング・ダイニングの照明
住まいのあかりは、青白い光の蛍光灯よりも、あかあかとした光の白熱灯の方がふさわしいと思っています。
確かに、蛍光灯は非常に優れた照明器具で、白熱灯と違って熱をもたないので、大切な電力資源を無駄な熱に浪費することもありません。電気代もその分安くつきます。でも心理的な面で、温かさを欠くように思っています。蛍光灯の光からは、どうしても昼間の仕事を連想してしまうのです。蛍光灯は家族の集まるリビングや食事の場のあかりには適さないのではないでしょうか。
昔は囲炉裏や暖炉の回りに家族みんなが背を丸くして集まり仲良く暮らしていました。白熱灯の赤い光はそんな家族の集まりを自然に連想させてくれます。
イサム・ノグチの和紙と竹ひごでデザインされた提灯のようなペンダントと白熱灯のブラケットを使っています。それぞれ、調光スイッチを付けて、明るさを調節できるようになっています。
彫刻家のイサム・ノグチが40年くらい前にデザインした、竹と和紙で構成された照明器具があります。いまでもヤマギワから発売されていますから、使っている人もいるかも知れません。この「AKARI」シリーズという照明器具が、40年近くにわたって世界中で愛用されているのは、家族の集う囲炉裏のようなあたたかなあかりとしてデザインされているからだろうと思います。
蛍光灯の光の方が部屋が明るくていいので、リビングやダイニングも全て蛍光灯にしたいという建築主さんもときにはいます。確かに明るくはなるだろうが、そもそも夜の住まいをそんなに明るくする必要があるのだろうか。光にも1日のサイクルがあります。人の方も適度にそのサイクルに合わせた方が心地よいのではないでしょうか。
昼は太陽、夜は月と星の明かりが自然と思えば、夜の明かりはやっぱり白熱灯の赤い光がふさわしいように思っています。読書や新聞など読みものにもっと光が必要なときには、蛍光灯の手元灯を使えばいいのです。
数年前から、蛍光灯でも白熱灯の色をした「電球色」の製品が各メーカーで発売されるようになりました。蛍光灯の消費電力の少なさと白熱灯のあたたかさ、それぞれの長所を合わせもつ製品として開発したものが市場に多く出回るようになっています。またごく最近ではLEDの照明器具も「電球色」の製品が出回り始めています。ともに価格はまだ高いのですが、適材適所を考えながら計画に取り込んでいこうと思っています。
以前から設計打ち合わせのときに、明かりは白熱灯にとすすめていましたが、建築主さんから「電気代が…」「省エネを考えると蛍光灯の方が…」などと言われると返す言葉がなくて困っていました。新しい電球色の蛍光灯やLED照明のおかげで、消費電力を気にしないで建築主さんに進めることができるようになりました。電球色の蛍光灯やLED照明はこれからの省エネルギーの住まいの必需品になると思います。
【写真左】イサム・ノグチの「AKARI」シリーズの照明を使った勾配天井のリビング
【写真右】勾配天井にした2階のリビング。白熱灯とトップライトの光で明るい気持ちのよいリビングになっています。
【写真左】照射方向によってリビングに変化をもたらすスポットライト
【写真中】吹抜けの壁には白熱灯のウォールライトを。調光スイッチにして明るさを調節
【写真右】無垢の木の色をきれいに見せる白熱灯の赤い明かり