私の好きな文庫本19 菜の花の沖
大好きな江戸時代の商人、高田屋嘉平のお話です。
2009年に埼玉県熊谷市Mさんの木造2階延べ約31坪の住宅を設計しまし
た。JR熊谷駅から徒歩30分くらいの田園地帯にある住宅です。現場に行
く途中の空き地に菜の花が群生していて、黄色い絨毯のようでしばらく立
ち止まって見ていた記憶があります。
私は「菜の花」を見るとある本のタイトルが頭に浮かんできます。司馬遼
太郎の「菜の花の沖」という作品です。
主人公の高田屋嘉平は淡路島の貧しい家に生まれました。船頭を志し、商
いの道に進みます。大坂で商人として成功を収め、千石船という当時では
最大の舟を使い、北廻り船で大坂から瀬戸内海を通って日本海側に廻り、
能登〜越後〜酒田を往復して各地の産物を取り扱って、各地に出店も設け
ます。蝦夷地の開拓にも関わって、厚岸の昆布を大坂に運んだり、択捉や
国後などへの海路の開発などにも成功しています。
その頃は、ロシアが蝦夷地に進出しはじめた時代で幕府との間でいざこざ
が起こっていました。幕府はロシア軍艦のゴローニン船長を捕らえ松前藩
に2年もの間幽閉します。ロシア側はゴローニンの情報欲しさに、たまた
ま蝦夷地の出店に向かう途中の嘉平の船を拿捕して、乗組員5人ともども
ウラジオストックに連行してしまいます。
嘉平は乗組員たちを励ましながら、不慣れな極寒の異郷の地で暮らします。
嘉平たちは故郷の淡路島の丘に咲いていた菜の花畑を想い出しながら、帰
国への希望を捨てないで暮らしていたのかも知れません。嘉平はロシア語
も勉強してウラジオストックの人たちから「タイショー」(乗組員たちから
は大将と呼ばれていた)と言われて人格的に尊敬されるようにもなります。
ゴローニンの解放交渉に協力を申し出てロシア軍艦で函館まで送ってもら
い、日本の地を踏んだのは、拿捕されてから半年後のことでした。幕府か
ら臨時の応接係に任命されて、ゴローニン解放のための外交交渉を担当し
ます。幕府、松前藩、ロシアとの間の交渉をまとめ上げ、ようやくゴロー
ニン解放に成功します。軍艦で送ってくれたロシア兵たちは別れ際に
「ウラ-、タイショー!!」と言って別れを惜しんだと言われています。
江戸の鎖国の時代ですので、帰国できたとはいえ、幕府の目が厳しく以後
は故郷の淡路島で軟禁状態での暮らしを強いられることになります。
高田屋嘉平は「タイショー」と船員仲間やロシア人たちに慕われながら、
「徳」という力でロシアと江戸幕府の架け橋になりました。架けた橋が当
時の政治状況のなかで消えていってしまうのも歴史の流れの必然なのかも
知れません。菜の花の咲く季節になると不思議にこの本の高田屋嘉平のこ
とを想います。
司馬遼太郎さんも菜の花が好きだったようです。命日の2月12日は「菜
の花忌」としてファンが司馬さんを偲んでいます。
***そんな訳で今日の私の好きな文庫本は…***
「菜の花の沖」全6冊 司馬遼太郎 (文春文庫)
-
予備の眼鏡をつくりました @栗原 2024.11.23
-
武蔵野の雑木林を借景にする木の家&エコハウス @栗原 2024.10.15
-
中野の平屋の木の家 建物と外構のパース(完成予想図) @栗原 2024.10.08
-
軽井沢の薪ストーブがある白い木の家 増築計画 @栗原 2024.09.24
-
今年の緑のカーテン ゴーヤの収穫 @栗原 2024.09.23
-
リクシルのショールームに行ってきました @栗原 2024.09.18
-
武蔵野の雑木林を借景にする木の家&エコハウス 上棟 @小泉 2024.09.10
-
武蔵野の雑木林を借景にする木の家&エコハウス 上棟しました @栗原 2024.09.10
-
中野区の平屋の木の家 昨日に地鎮祭を執り行いました @栗原 2024.09.07
-
武蔵野の雑木林を借景にする木の家&エコハウス 土台敷き@小泉 2024.09.04
栗原ブログ | 私の好きな文庫本の最新記事
- 11月23日 予備の眼鏡をつくりました @栗原
- 10月15日 武蔵野の雑木林を借景にする木の家&エコハウス @栗原
- 10月08日 中野の平屋の木の家 建物と外構のパース(完成予想図) @栗原
- 09月24日 軽井沢の薪ストーブがある白い木の家 増築計画 @栗原
- 09月23日 今年の緑のカーテン ゴーヤの収穫 @栗原
最近のコメント
-
(kokyuBloguserより[12/12])
木下さん、コメントをありがとうございます。木下さんのお住まいも同じように工夫が満載のお住まいになっていて渡辺篤史さんの建物探訪の放映のときにとても評判がよかったです。
-
(木下尚久より[12/11])
「建もの探訪」拝見しました。先生の分かりやすい説明で、住みやすい工夫が色々されていることにあらためて感銘を受けました。見学会にお伺いした時のことを懐かしく思い出しました。
-
(kokyuBloguserより[10/31])
S.Oさん、近況のコメントをありがとうございます。散歩のときなどときどき前の道を通るようにしています。2階のリビングや畳コーナーで読書をされている姿が目に浮かびます。外壁の色がとてもいい色なので、同じ色の吹き付けを選んだ建築主さんも多いです。
-
(S.Oより[10/31])
ご無沙汰しております。我が家が目に入り、驚きました。築13年になりますが、土台がしっかりしているので、先日の地震でも何一つ倒れることもありませんでした。建具も狂うことなく、スムーズです。いつまでも心地よい家で読書するのが、いちばんの楽しみです。図書館から借りて、上橋菜穂子さんの本を再、再読しています。
-
(J-WAVEからスマートスピーカー「Google Home Mini」いただきました | 木の家・自然素材の住宅設計なら東京都の光設計より[06/10])
[…] TEAM J-WAVEに登録して、3月23日には生放送でSTEP ONEに小泉と二人で出演をしました。コロナの前だったので森本晋太郎さんとデイレクターさんのお二人が事務所に来てくれて光設計からの5 […]
-
(kokyuBloguserより[03/24])
金子さん、コメントありがとうございます。お久しぶりです。J-WAVE聴いてもらえてよかったです。生放送でしたので緊張しながらお話ししました。お元気でお過ごしください。
-
(金子敏恵より[03/24])
ご無沙汰致しております。早稲田の専門のマッハです。(毎年お年賀状ありがとうございます)
今朝、目白まで通勤の為の戸田公園駅までのたつた15分から20分ですがJ-WAVEからミニ避難所住宅…の興味深いおはなしが…
なんと‼️くりはらさーん‼️
Twitterで直ぐに画像で確認!感動致しました。懐かしいお姿拝見致しました!偶然の出来事ですがどうしてもご挨拶させていただきたくて書き込みお許しくださいませ
カレンダー
ブログカテゴリ
- 小泉ブログ (31)
- 栗原ブログ (559)
- はじめにお読みください (1)
- プロフィール/連絡先 (1)
- 設計監理ダイアリー (1,405)
- 「西川・森の市場」てにもりの家づくり (22)
- 設計編 (52)
- 素材編 (37)
- エコ編 (18)
- 見直しの住居学 (15)
- 竣工写真いろいろ (40)
- 見学会・セミナー (18)
- 01:玄関いろいろ (14)
- 02:リビングいろいろ (18)
- 03:キッチンいろいろ (2)
- 04:作り付けの家具いろいろ (24)
- 最新メデイア情報 (142)
- 住宅誌など掲載リスト (6)
- 無料相談会 (1)
- 建築主さんの情報交換コーナー (1)
- OB建築主さんのお便り (79)
- ヤップ島讃歌 (8)
- みなみ野「通り庭の家」 (1)
- ちいさな地下室の家 (2)
- 桜を愛でる家 (1)
- 実家の山の木でつくる家 (8)
- 地下7m地熱利用住宅 (12)
- 木造3階屋上緑化の家 (9)
- 光と風と暮らす家工事 (1)
- 喜多見エコハウス (13)
- 新百合ヶ丘の家 (1)
- 井の頭公園の家 (1)
- 川越の家 (1)
- 狭山・ギャラリー麦 (10)
- 祖師谷大蔵の家 (1)
- 市川のエコハウス (1)
- 所沢の家工事中!! (1)
- 私の好きな建築 (5)
- 私の好きな映画 (9)
- 私の好きな文庫本 (24)
- 最近読んだ本 (8)
- my off time (143)
- my 旅 (20)
- 節電にエコで協力しよう (7)
- その他 (25)
- 光設計1985年〜の歩み (1)
コメントを残す
コメントを投稿するにはログインしてください。